月、完全の美

夜天に霧掛かって、くすんだダークグレイであるのがいっそう果てしなく見える天空の下地に対し、月ばかりは質感を違えて判然と光を劈かせている異物な美、寒さが厳しいほど月が美しく研ぎ澄まされるこの時期から生存者が現れ始める。地上を統一しているのは街灯でも家々の電灯でも、ものものしく騒々しい四角形でもなく古来から月光だった。それを証明するのに、しまいには今日の一晩だって要さない。支配者は一瞬を制する。あたかも数千年そうであった面で、これからも揺るぎない面で。木々の幹の細かいひび割れ。今はなにも植えられていない歩道の植木の丸裸。夥しい光の交差する道路。冬の薄暗闇のすみずみに、月光の余波が行き渡っている。